テレビドラマによく登場する弁護士の業務はイメージし易いと思いますが、司法書士、社会労務士、行政書士など「士」が付く他の法律系の職種は、その違いが分かりにくいと思います。 私も実は行政書士試験に合格した2018年までほとんど知りませんでした。 以下に私の理解をご説明いたします。
行政書士は昔「代書屋」と呼ばれたそうです。代表的な業務は、自動車登録、建設業許可、飲食店営業許可などの役所への申請手続きで、やろうと思えば自分で申請書を書き、必要書類を揃えて自分で申請できるものでしょう。 しかし、「平日に何度も役所に行かねばならない」、「法律改正が多くて複雑」、「添付書類が多くて煩雑」、「役所の人は忙しくて詳しく教えてくれない」「申請の手引きなどを渡されても難解」などの理由により行政書士がお手伝いするようになったようです。 詳しくはこちら
日本行政書士連合会から毎年「行政書士に相談しよう」というポスターが送られてきます。2023年度は、昨年と同じ貴島明日香さんでした。毎年、モデルさんが変わるのに2年連続というのは彼女が好評だったのでしょう。明るい優しい感じが合っているのかも知れません。
行政書士の業務は行政書士法という法律によって大きく三つの業務として規定されています。いわゆる独占排他的業務です。
江戸時代や明治時代初期は、おカミに物申す事や、特定の許認可をもらうことは一般庶民にとって敷居が高かったのでしょう。当時の日本人は世界的にも異常に識字率が高かったそうですが、お役所に提出する書類を代筆し、場合によっては庶民と行政の間を仲立ちするような機能が自然に発生したのでしょう。 特に当時の武士階級は儒学や国学の読書家が日本中あちこちにいたのですから、庶民のために「なんやら候~」となどと達筆な筆で書類を代筆していたのでしょう。 その後、明治時代の中頃に憲法や民法が定まり、法律体系が徐々に整い、社会の変化に伴い法律が増え、複雑化してきました。お役所にとっても円滑な行政活動を行う上で、関連法令を理解し、要件に沿った申請書類を作成し、申請者をサポートする行政書士は便利な存在になったようです。
明治初期、若い志士だらけの明治新政府の中で肥前藩の江藤新平が法務卿だった頃、代弁人、証書人、代書人という制度を設けたそうです。 代弁人が後の弁護士、証書人が公証役場の公証人、そして代書人の位置づけがさまざまな士業へ分かれたのが歴史です。ベースは法律家なので法務省所管の弁護士、公証人、司法書士が中心の構成になっています。
行政書士の業務は、最初は地方の警察署(警察制度自体が明治期のスタート)への書類作成や、藩に代わって生まれた道県制や市町村制の中でお役所へ提出する書類作成から始まったそうで、戦前は「代書人規則」によって内務省(現総務省)の管轄です。要は法務省系からみればまったく異端ですね。戦前の内務省は、現在の厚労省、経産省、国交省などを含む大組織であったので、行政書士の業務範囲は今よりもっと広かったのだと思います。戦後、昭和26年に「行政書士法」が議員立法によって制定される一方、専門性の高い申請業務として厚労省所管の社労士、経産省特許庁所管の弁理士も設置されました。 昔の行政書士は、労働・雇用関連の書類も作成していたので、今も高齢の大先輩行政書士には社労士の業務もできる方がおられます。一般の国民にとってはわかりにくい、行政縦割りですね。
現在の行政書士の登録人数は約5万人。全国のコンビニの店舗数6万店弱に近い数字ですが、めったに出会うことがありません。ちなみに弁護士は約4万人、司法書士は2万人強で法律系の士業を全部足すとざっくり20万人くらいでしょう。これが多いのかどうかわかりませんが、他民族国家で訴訟が多いと言われる米国の法曹人口(裁判長や検察含む)はなんと130万人以上です。
昔、「六法に入れてくれない行政法」という自虐的な行政法の学者さんがおられたそうです。憲法、民法、刑法、商法・会社法などはそれぞれ独立した法律ですが、実は「行政法」という名称の法律はありません。しかし、国会で制定される法律の数の90%以上は行政法に分類されます。行政法の学習は、主に「行政手続法」「行政不服審査法」「行政事件訴訟法」「地方自治法」「国家賠償法」を学び、条文を覚えるのですが、実務ではほとんど使いません。
都道府県、市町村、保健所、警察署、消防署などの行政機関の活動には必ず個別法令(行政法)の根拠が必要なのですが、個々の法令に精通した一般市民は極めて少なく、その内容は難解です。また、行政側にある程度の「行政裁量」が認められている場合はローカルルールが多い、すなわち地域によって多少の違いが出てきます。 高度に発達した日本社会では法令が複雑化、専門化しているので、行政書士がサポートしたり、アドバイスできるケースが多々あるのだと思います。 また行政側にとってもスムーズな事務手続きのために行政書士が役に立つことが多いと考えられます。たまに、行政側が用意している古い手続関連の書類について、法律改正があったので、この部分は修正した方がいいですよねと意見をすると、めっちゃ喜ばれます。
よく行政書士のことを「街の法律家」や「国民と行政との懸け橋」と表現されますが、気安く相談できる便利屋さんという感じです。
行政書士を名乗るには日本行政書士会に登録しなければならないのですが、登録資格を取得するにはいくつかの方法があります。
一つ目は、近年難化してきたと言われる年に一度(11月)の行政書士試験で合格(300点満点の60%の180点以上)すること。 法学部の学生さんが、司法試験に臨む前に腕試しで行政書士試験を受けてみるという話を聞いたことがありますが、意外に30代、40代、そして私のように50代の受験者・合格者も多いです。合格率はおよそ10%。ちなみに私は一回目の受験は160点台で不合格(筆記がまったくだめでした)、二回目に200点でぎりぎりで合格できました。
二つ目は行政書士試験よりめっちゃ難しい司法試験合格者や、頭の良さそうな税理士。 私の知る限り税理士さんの登録者が多い気がします。 許認可申請の中には、財務諸表や収支報告を添付するものがあるので、税理士さんにとっては業務の幅が広がるのでしょう。しかし、行政書士は税理士の資格なしに税務署への申告代理や税務相談を行ってはいけないことになっています。
三つ目は行政機関に20年以上勤務した経験豊富な元お役人です。たった20年勤務したら何の試験も受けずに登録できるのはずるいなあと感じましたが、その行政機関で長年許認可のチェックをしてきた方は、当たり前ですが、その専門的知識と経験は非常に高いです。後輩がお役所にいたらコミュニケーションも良いでしょうし、なにしろ豊富な情報を持っておられます。 行政書士会の研修会などでよく教えてくれる優しい印象の方が多いです。
他の士業のことはよく知りませんが、行政書士会というのは勉強、研修が大好きな集団です。それぞれの業務に専門化した先輩行政書士が、活字にはできないようなローカルな実態やノウハウを教えてくれます。 日程が合わず、なかなか研修会に参加できませんが、いつも感謝しております。
行政書士会に登録して最初の研修は業際問題やコンプライアンスについてでした。業際問題については「行政書士法コンメンタール」(兼子仁著)を読んでいたので大筋は理解していましたが、要は他士業の排他独占業務には踏み込むなということです。行政手続きの中でも、厚生労働省の助成金や雇用関連の代理申請は社会労務士、税務署への税務申告は税理士、法務局への登記手続きは司法書士と、それぞれの社会労務士法、税理士法、司法書士法で独占業務として定められており、他士業が専門外の相談を受けることはダメなんです。しかし、その他の行政機関に対する各種申請の方が、種類も申請数も圧倒的に多いですが、他士業さんが代理申請、相談、または申請書類の作成を業としてやっているケースが多々あるのではないでしょうか? それって、すべて行政書士法違反ということになる筈なんですが、あまり騒がれないようです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。Google Analytics(ホームページのアクセス分析ツール)によると、本ページのアクセス数は意外に多く、また滞在時間が平均5分程度と長めのデータ結果です。どなたが訪問されているかまではわかりませんが、おそらくこれから行政書士試験を受けられる方や、これから行政書士登録をされる方が多いのではと想像します。 もし、そうであれば、これから行政書士になられる方へ一言お伝えしますと、「行政書士の業務は今でも多岐にわたり、進化・変化していると思います。貴方のサポートが必要なお客さんは必ずいます。貴方のサポートに感謝するお客さんはいっぱいいます。是非、横のネットワークを貼って情報交換しましょう」令和2年9月、他士業のご紹介ということを始めたばかりなんです。
また、私の業務内容や、行政書士事務所開業のブログもご覧頂ければ幸いです。