成年後見制度について

成年後見制度とは

民法を勉強すると、最初の第一編「総則」、第二章「人」で、①自然人は生まれながら持つ権利能力、②自分の行う行為の法的な結果を予測し 意味を理解できるだけの知的能力としての意思能力(おおよそ10歳前後から備わる)、そして、③法律行為 (契約など ) を単独で有効に行うことが 行為能力 と三種類の人の能力が出てきます。

 

この行為能力を制限される「制限行為能力者」として、年齢18歳未満の未成年者は分かり易いですが、18歳以上で認知症の方や障がい者を対象として、被成年後見人、被保佐人、および被補助人という三種類が法定されています。

 

知識としてこういう制度や定義を知っていたとしても、実際に高齢の親のために手続を行おうとすると面倒なことが多発します。 本ブログは、業務としての成年後見制度のご案内ではなく、当職が経験したこと、感じたことを書きます。 高齢者をターゲットとするさまざまな詐欺事件が毎日起きており、深刻な社会問題化している中で、当職と同じように高齢の親が心配な方に読んで参考にして頂ければと思います。

 

成年後見制度の全体

成年後見制度全体としては、「法定後見制度」と「任意後見制度」に分かれ、その手続は大きく違います。

下記は厚生労働省、令和6年4月「成年後見制度の現状」より

 

現在、日本の認知症患者数は600万人を超えています。そして、65歳以上の知的障がい者200万人超と合わせると800万人超にもなります。 認知症や知的障がいそれぞれの程度の差は広いので、800万人超全員に成年後見制度が必要なわけではありませんが、厚生労働省の令和6年4月「成年後見制度の現状」によると、令和5年12月時点の成年後見制度利用者数はたったの約25万人(成年後見18万人、保佐5万人、補助1.6万人、任意後見については僅か0.3万人)という、たった3%の数字です。

 

成年後見制度の申立人は、本人や家族などの親族が4分の3強を占めますが、近年徐々に市区町村長が増えているようです。 これまでの課題として取り上げられていることは、①本人の意思を尊重しない運用で、後見人に選ばれるのは親族が18%、その他(弁護士、司法書士など)が82%。②後見人の報酬料が不適切、③地方連携ネットワークの整備が不十分。 現在、第二期計画として令和4年から令和8年にかけて、これらの課題の検討、支援策の充実、運用改善などが行われているとのこと。まあ、そうだろうが、たった3%にしか利用されていない制度にはもっと他に課題があるのではないでしょうか?

 

後見人が勝手に預金を使い込んでいたというようなニュースをたまに目にすることがあります。

 

法定後見制度

法定後見制度の説明として、厚労省サイトなどに掲載されている上の図を見ても一般人には意味がわからないと思います。

まず、対象者は「判断能力」で区別され、法律用語としては「事理弁識能力」とも呼びます。この「判断能力」が「欠けている」のが「後見」でほとんど行為能力は無く、意思能力も低い状態です。

分かりにくいのが「著しく不十分」の「保佐」と、「不十分」の「補助」の違いです。申立書には診断書を添付するので、「長谷川式認知症スケール」「MMSE」「脳画像検査」などの医学的な診断結果によるある程度の指標があるようです。

それ以外の大きな違いは、「補助」の申立には本人の同意が必要なことです。

 

成年後見人、保佐人、補助人に与えられる権限には、「取消権」「同意権」「代理権」があります。 「取消権」は、判断能力に問題がある本人が何らかの契約をしてしまっても、契約後の取消しができる権利ですが、日常生活上の買い物程度の売買契約は除外されますし、保佐人と補助人については特定の法律行為に限定されます。 「同意見」は「取消権」と同じような権利なのですが、成年後見に関してだけは成年後見人が同意したとしてもその通りの法律行為をするとは限らないのでそもそも「同意見」はありません。 そして、「代理権」は上図の通りです。

 

法定後見制度の申立手続

家庭裁判所へ申立を行う実際の手続が大変です。まず書類の枚数が計40ページ以上でした。

・申立書 3ページ(「成年後見」「保佐」「補助」のどれも同じフォーマット)

・申立事情説明書 7ページ

・親族関係図 1ページ

・本人情報シート 2ページ

・候補者事情説明書 4ページ

・財産目録 3ページ

・親族の意見書 1ページ

・収支予定表 2ページ

・代理行為目録 2ページ

・その他: 私の場合、経緯、病歴、申立の動機など補足説明として別紙を5枚添付

他に本人、および候補者の戸籍や住民票、上記の診断書などがあります。

 

費用は、申立手数料800円、登記手数料2,600円、郵便切手数千円なので、合計1万円も掛かりません。

 

申立後、すぐに家庭裁判所の方が本人と面会し、審判を待つのですが、私の場合は2か月半かかりました。 家庭裁判所の審判書が届いても、審判確定には2週間(抗告期間)が必要で、審判確定後に登記されるのですが、これにもさらに2週間程度かかります。 結局、私の場合は、9月末に申立てて、登記事項証明書が届いたのは翌年1月中旬でした。

 

法定後見制度があまり使われない理由(考察)

家庭裁判所の費用は大きくありませんが、上記書類を作成することは大変な作業だと感じます。私の場合、行政書士業務である外国人の永住許可や帰化申請と同じレベルの質・量だと感じました。 よって、司法書士か弁護士に依頼する場合は、報酬料として数万円の費用はかかるでしょう。この法定後見制度があまり使われない理由として考えられることは、家庭裁判所の手続と登記事項証明書が届くまでの時間が掛かることでしょう。 

 

一方、ネット上で散見される意見や問題としては、親族の申立人が成年後見人・保佐人・補助金として選任されないケースが多く、家庭裁判所に弁護士等を選任されること。または、頼んでもいない監督人として弁護士等が職権で選ばれることです。 この弁護士等にはたまに行政書士も選ばれるそうですが、本人やその親族との人間的な相性の悪さやコミュニケーションのトラブルなどが発生し得ることです。 費用も家庭裁判所が裁定し、財産額により差はありますが年間12万円から36万円程度だと言われています。 詐欺的事件が多いので家庭裁判所の審判が硬直化し、一般国民の常識感覚と乖離しているのでしょう。でも、その弁護士等が不正を行ったケースも決して少なくありません。

 

「保佐」と「補助」については裁判所が代理できる行為を審判で定めますが、財産管理の金融機関等との取引以外の、支出に関する手続や契約、債務の弁済や債権の回収などはこの法定後見でなくても親族が行っているケースがほとんどでしょう。また、身上保護関係の、介護契約、福祉施設の契約、医療契約や病院への入院などについては、それぞれの介護・福祉・医療機関は親族ならば誰でも保証人として契約が成立するならば、法定後見を求めないでしょう。要は、財産管理や不動産売買のような重要な財産関係の代理権が必要な場合しか、必要性が無いということです。

 

任意後見制度

世の中にほとんど知られておらず、利用件数が極端に少ない任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ本人自らが選んだ任意後見受任者に、自己の生活、療養看護及び財産に関する事務について、代わりにしてもらいたいこと(代理権を付与する事項)を公正証書による契約(任意後見契約)で決めておく制度です。

 

任意後見受任者には子などの親族の他、他人でも構いませんが、公証役場に出向いて公正証書を作成する必要があります。そして、本人の判断能力が低下したときに、その公正証書の写しと共に、上記の法定後見制度と同じような書類を作成して、家庭裁判所に申立て、任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じます。任意後見監督人の報酬は、財産額により差がありますが年間12万円から36万円程度だそうです。

 

任意後見契約は比較的自由に本人が内容を定めることができる上、任意後見受任者はその契約当事者になります。 申立後家庭裁判所が後見人を第三者に変更することはありません。

 

当職の場合、成年後見制度が必要だと考えた時点で既に親が認知症が進んでしまっていたので、任意後見制度の手続を行ったことはありませんが、元気なうちに公証役場へ親を連れて行き、公正証書を作成する作業が重くなる気がします。(まだ判断能力のある本人と考えが合わないなど)

 

考察

結局、法律行為 (契約など ) を単独で行うことが不安であったり、困難になってしまった制限行為能力者の人権を尊重し、法律で守ろうとすると、法定後見制度や任意後見制度になってしまうのでしょう。

 

細かいことですが、金融機関での手続には、家庭裁判所の裁定書だけでは手続はできず、抗告期間+嘱託登記の期間で約1か月後の登記簿原本入手まで待たなくてはなりません。 何らかの理由で金融機関での手続に急を要する場合にはまったく使えません。 銀行によっては、成年後見人・保佐人・補助人に対し、身分証明書に加えて、実印による押印と印鑑証明書を求めるところもありました。 実印と印鑑証明書を求めるのは、作成した書類の本人確認が目的です。 そもそも銀行で口座を開くときに実印と印鑑証明書を求めないのに成年後見人等になると必要だという不思議な運用をしています。 当職の印象では、どこの金融機関窓口でもこの制度による手続経験が少なく、いちいち本部の先任者へ相談・確認しているようでした。

 

もし、本人が元気な間に、親族の方が特定金融機関での代理行為だけを望み、急ぐ場合であれば、成年後見制度は諦め、それぞれの金融機関で定めている「任意代理」を利用することをお勧めします。基本的に必要な書類は委任状だけです。キャッシュカードとパスワードがあれば、「任意代理」の手続もなく、親族が、たとえ他人でもお金の出し入れが容易であり、実際にそういった運用をされているご家族が多いでしょう。

 

結局、成年後見制度は、高齢化社会が進行し認知症患者が増えている日本で、実際の社会活動とのアンマッチが多く、不正や詐欺を食い止める効果は少ない(利用者率が低過ぎ)という評価になるでしょう。

 

不正や詐欺を一件でも減らすためには、法律ベースの成年後見制度ではなく、一定金額以上や初めての振込先についての再確認プロセスや、過去の入出金の分析による異常取引の検出・警告・停止、または、すべての金融データのAI分析によって特定人には制限をかけるなどの工夫ができないものでしょうか。 若しくは、地域の介護支援者と市町村が連携し、住民の生活保護の一環として高齢者が騙されにくい社会仕組みができないものかと愚考します。