相続手続で最も厄介ことの一つは、被相続人の生まれてから死亡までの戸籍謄本・除籍謄本を集めること、そして相続人全員の戸籍謄本または抄本と住民票を集めることです。 これらを集めると数十ページもの書類の束になります。そして、被相続人の相続財産である不動産が複数、かつ金融機関の口座も多数あり、自動車の名義変更も必要などでの相続手続にはこの数十ページの書類の束を繰り返し提出しなければなりません。 そのため、原本を2部か3部ずつ収集することもやり方の一つでしたが、費用が2倍、3倍になります。
そこで数年前から無料の「法定相続情報証明制度」があります。 最初に多くの書類を集めなければならないことは同じですが、その後の複数回の相続手続が簡単になります、
STEP1 必要書類の収集
まず、必要な書類を集めるところはこの制度を利用しなくても同じです。
①被相続人の出生から亡くなられるまでの連続した戸籍謄本・除籍謄本 (相続人を確定させるためで、最後の戸籍=除籍謄本から順番にその前の戸籍のあった市町村役場へ電話し取り寄せます) 昭和32年の戸籍法改正と平成6年の戸籍法改正(データ化)があるので、最低でも3通で、婚姻や戸籍地を移動させて回数分増えます。 (戸籍法改正分は、国民各人による任意的な変更ではないのに、市役所では一通750円も掛かり、釈然としませんね)
②被相続人の住民票の除票
③相続人全員の現在の戸籍謄本(抄本でも可)(被相続人が死亡した日以降の発行日付のもの)
④法定相続情報を申し出る人(申出人)の氏名・住所を確認する書類(運転免許証の表と裏のコピー、マイナンバーカードの表コピー、住民票の写しなど)
⑤STEP2の法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合は、各人の住民票の写し。(相続人の住所を記載した方が、その後の相続手続で提出するページ数が減ります)
STEP2 法定相続情報一覧図の作成
法定相続情報を証明してもらうのに、まず申出人が一覧図を作成しなければなりません。 法務局ホームページに記入様式もあります。
タイトルは、「被相続人○○○○法定相続情報」
被相続人: 最後の住所、最後の本籍(*任意)、出生日、死亡日、そして名前を記載
相続人: (妻)(長男)(長女)などを示し、住所(*任意)、出生日、名前を記載
住所地は住民票の写し通り、本籍地も戸籍謄本通りの文字を使用。*任意の本籍や相続人の住所地は記載した方が良いでしょう。
パソコンで作成すると簡単なので、STEP1の必要書類が揃ったら、当職で作成すると早くて簡単です。
STEP3 申出書の記入、登記所(法務局)へ申出
所定の申出書に、被相続人、申出人、代理人、利用目的(不動産登記、預貯金、相続税申告、年金等手続、その他)、必要な通数(何通でも無料)、被相続人名義の不動産(不動産番号、また所在地)などを記載。これもパソコンで作成すると簡単ですので、当職が作成することも可能です。
申出先登記所(法務局)は、被相続人の本籍、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産所在地、のいずれの地を管轄する登記所(法務局)です。
備考
必要書類を集めたら、法定相続情報をデータ化して作成されるのかと期待したら、いったんは自力で一覧表を作成しなければならず、その一覧表を清書してくれるだけのようなのです。相続手続の回数が3件未満ならば、わざわざこの制度を使わない相続人が多い気がします。なぜなら、上記申出から発行まで2週間程度かかるので、書類原本を持ち回りの手続でもその間に終わらせることができるからです。金融機関では原本を持ち込めばコピーを取ってくれます。
年金の停止、および死亡月までの未支給年金の振込の為には除籍謄本などの原本を郵送しなければならず戻って来ないのですが、この「法定相続情報の写し」の原本で代替できます。国民年金・厚生年金以外に企業年金があった場合も同じです。「住民票の写し」と同様に「法定相続情報の写し」って、コピーで良いのかなって勘違いしますね。「〇〇の写し」の原本という意味です。
この申出手続を誰かに依頼する場合は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、そして当職のような行政書士に依頼することができます。
この制度自体を知らない国民が大多数で、日本全体で年間約150万人の死亡者の中で、相続人がこの制度を利用する件数は年間10万件もないのではないかと想像します。ただし、相続手続を専門にしている士業が業務効率を上げるために利用するには便利な制度といったところでしょう。
また、不動産の相続登記が進まない問題に対し、令和6年4月から2年以内の義務化も始まりました。この法定相続情報証明制度を利用すると不動産の相続登記はこの証明番号で行うこともできるとのことですが、どれほどの効果があるのか疑問ですね。
コメントをお書きください