コロナ禍の中、さまざまな国(経産省)や地方自治体の補助金・支援金・給付金のサポートを行っており、中には申請書類の作成や電子申請の代行なども行っています。 その中で、事務局へ電話で質問したり、申請者の特異な条件について確認する際に、「申請者本人からの質問にしかお答えできません」と冷たい返事が返ってくることがあります。
一応、許認可申請時のように、申請者から業務の委任を受ける際に委任状を頂いていますが、電話での質問だけでなく、申請時点でもその委任状を見せることはありません。「なぜ申請代理人が本人の代わりに質問して、直接返事をもらえないのか」、とても疑問です。 わざわざ本人に説明し、本人から電話してもらい、その返事を聞いて、また相談し説明しながら申請書類を作成するのは、面倒なことです。
行政書士法
以前、補助金の申請代理が違法かどうかが話題になったことがあったとき、行政書士法を説明したことがあります。 以下はその目的と業務について、
平成1年11月26日 参議院総務委員会
上記のように行政書士法の説明を聞いてもピンときませんね。もう少し具体的な例として、平成1年11月26日の参議院総務委員会での質疑の議事録を読みました。
この日の委員会では、議員立法(珍しいらしい)である行政書士法の改正案が全会一致で可決になったのですが、その前段階の質疑の中で、「(熊本地震で)被災した中小企業を支援するグループ補助金制度に対し、コンサルタントなどと称した非行政書士が申請書類の作成を報酬を得て行った事例があり、行政書士法違反による罰金刑が処せられた」という説明があったり、「ホームページ見ますと、非行政書士、そういう行政書士の資格を持たない方の集まりであるにもかかわらず、補助金、助成金の申請を代行いたしますという、こういう告知がされたりしております。高市総務大臣(当時)、こういうことをちゃんと調査してただす必要があると思いますが、ますが、いかがでしょうか。」という質問があり、当時の高市総務相大臣も「御指摘のような事案があってはならないと考えます」と答弁しています。
そうすると、行政書士登録をしていない税理士や中小企業診断士の中で補助金申請の書類を作成することが多いでしょうが、行政書士法違反になりますね。一般的に、パソコンの扱いに慣れた他人が事業計画を作成したとしても、申請者がその内容を自分で作成したとして申請することはあり得ると思います。今の補助金申請は100%、パソコンを扱える人しか申請できない仕組みになっています。問題になるのは「非行政書士が、他人から依頼を受け、報酬を得て、補助金申請書類を作成」することなのか?無償、かつ反復性がないと問題にならないのか? ネットなどの情報では、補助金額の50%や、何百万円~1千万円レベルの報酬を得るコンサルもいるそうです。それが行政書士なのかどうか知りませんが、法外な報酬料を取ることが補助金規制法に抵触するのか?それならば、報酬額の規則やガイドラインがあるのか? 疑問ばかり出てきます。
そもそも行政機関の末端(請負業者社員が多い)には、行政書士法を知らない人が多いでしょう。また、非合理、かつ不当な要求(よくあること)を行う事務局運営自体も補助金規制法に抵触することが多発しているようです。
100頁前後の公募要領や採択後の補助事業の手引きを読み込み、理解し、申請書等各種書類を作成すること自体が、世の中の常識のレベルなのか?約380万者の中小企業や個人事業主の標準、即ち国民の標準を意識した内容になっていないので、さまざまなサポートが必要になっている、そしてそこに不正が起きる遠因があるのではないでしょうか?
行政書士業務の周知徹底について
上記総務委員会では、行政書士業務の周知徹底について、具体的な対策案も出ていました。
(1)熊本県では、非行政書士による書類作成は違法であるという旨のプレートを作って申請窓口に置いているということがある、全国の自治体等でこういう対策を広げること。
(2)グループ補助金の申請書には、書類を作成した行政書士の名前、住所を書く欄、あるいは行政書士の職印を押す欄がありません。これ作ることで、こういう非行政書士による代行という違法な行為を抑制する。
(3)非行政書士に申請書類の依頼をしていないとの確約書の添付を義務付けるということも効果的ではないか。
うんうん、全部やって欲しいものですね。法務局へ行くと、「登記申請は司法書士のみ」というポスターがあり、税務申告書には税理士が職印を押す欄がありますので、そういうことと同じやり方ですね。
実務上の問題
一方、補助金申請、許認可申請などの行政書士業務だけでなく、法務局での不動産登記、税務署への税務申告、たとえ裁判の原告でも被告でも、本人がやる気になれば、時間があれば、自分でできるものです。
国民に対し申請・申告・届出などの方法を教えることは公務員の業務の一部でしょう。それぞれの法律、規則、慣習が複雑で難解なので、いわゆる士業に依頼するケースが多いということなのでしょうし、人員に制限のある行政側も士業に間に入ってもらった方が効率が上がるのが本音なのかも知れません。
話は変わって、今月、デジタル庁が発足し注目されています。「デジタル化」という言葉のイメージだけでなく、さまざまな行政サービスや行政手続きが、誰にでも簡単に早くできる世の中になるのでしょうか? それぞれの複雑な法律、規則、慣習が簡単に理解されるとは思えません。
現時点の電子申請にもいろいろあります。年に一回の税務申告(e-tax)は使いやすい(慣れた)けど、経産省のJグランツ、総務省のe-Gov、法務省の登記・供託システムなど、実際にやってみると、呆れるほど使いにくいところがボロボロ出てきます。それぞれ個別最適なシステム設計を目指したのでしょうが、ITリテラシーの低い役人が要件定義をしたのか、センスの悪いSEが設計したのか、IT投資の無駄も多いでしょう。特定の人にしか使いこなせないITシステムは、「デジタル化」イメージとは真逆です。省庁の壁や既得権益を守ることに執着するからなのか、「国民の利便性」は二の次になっているITシステムが多いと感じます。
各種申請に必要な住民票、法人の履歴事項全部証明書、過去の税務申告書など、国や地方自治体から発行される書類(紙)を添付する意味があるのか? データ連携ができていればシステム上でチェック・確認すれば良いだけではないか? もっと言うと、3か月以内の発行された原本に限定されることが多いが、申請時点で有効かどうかが重要な筈。
他にも細かい弊害は、言葉不足や法律用語などで難解な文章なのに「承諾」(押さないと前に進めない)が必須、プルダウンの多用と選択肢不足、ページ遷移が多過ぎて自分がどこに居るのかわからなくなったり、ループにはまり込んでしまい元のページに戻ってしまう現象、諦めさせたいような注意書きの多さ、入力する大文字・小文字・カンマ有無などの制限、和暦と西暦の混在、ダイレクトメッセージ機能が無い、などいっぱい。
「デジタル化」で、さまざまな行政サービスや行政手続きが、誰にでも簡単に早くできる世の中には、まだ50年くらいかかるのではないでしょうか?
おまけ
先日、88歳の母親のマイナンバーカードを申請し、事前に電話アポを入れて取りに行ったら、「本人でないとお渡しできないかも。。。」と言われ驚きました。所定の代理申請欄があり、やむを得ない理由も明確で、そこに自署しているのに変なことを言う役人がいますね。 そして、待たされている間、改めてA4の紙にマイナンバーや住所など個人情報を書くことを求められ、それは申請書に記入した内容と同じで、既にデータ化している筈なのに、なんで人が多い会場の中で、改めて書かせるのか? 更に、その紙に自署して押印しろとのこと。 三文判はいつも持っているけど、自署か記名押印のどちらかで法的効果はあるので、自署押印は不要でしょうと意地悪を言ってしまいました。
令和5年6月追記
このブログは毎月コンスタントにアクセス数が多いようです。検索エンジンで、「補助金申請 代行 行政書士法」などのワードで検索で上位表示されているからでしょう。 コロナ禍の中で、補助金・給付金などの国の予算が多くなり、関心を持つ事業者が増えた一方、様々なコンサル業者が補助金を餌にした営業活動を活発化したのでしょう。そんなコンサル業者のホームページを見ると、「申請代行」、「高採択率」、「簡単」のような単語が散見されます。
一方、行政書士だから採択される可能性が高い事業計画を作成できるかは甚だ疑問です。その行政書士個人の事業経験によりますが、行政書士試験の学習の中に、経営戦略、組織運営、マーケティング、経営分析などの知識は一切ありません。公募要領を読み、必要書類を作成、チェックはできるでしょうが、各事業者の経営状況を把握し、当該補助金の目的・趣旨に沿った事業計画の中身を考え、提案・助言しながら、収益計画の数字づくりを行うことは至難の業だと思います。
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