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知的財産管理② 特許法

さくらい行政書士事務所 特許法

特許法は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものを「発明」として保護すると規定されています。発明の保護と利用を図ることにより、発明することを奨励し、これにより産業の発達に寄与することが特許法の目的です。

発明者に一定期間、一定条件で特許権という独占的権利を与える一方、発明内容を公開して利用を図ることにより技術の進歩・産業の発達にするというバランスを取っています。

特許の登録要件

(1)特許法上の「発明」であること:「物の発明」と「方法の発明」に二分され、①自然法則を利用していること、②技術的思想であること、③創作性があること、④高度性があることが求められます。

①技術的思想とは、知識として伝達でき実施可能性・反復可能性が求められます。○○細胞の発明と発表しても再現できなければなりません。魔球ナックルボールの投げ方、アクロバット的な自転車の乗り方のような技能は対象外です。

➁創作性とは、それ以前にはなかった新しいものを作る出すことで、ニュートンの万有引力の法則やアインシュタインの一般相対性理論は発見にあたり発明にはなりません。ニュートンが発見する前もリンゴは木から落ちていました。

③高度性とは、相対的なものなのであまり意味はありません。実用新案の考案と区別するための形式的な表現といえます。

(2)特許法上の「特許の3要件」を満たすこと:①産業上の利用可能性があること、②新規性があること、③進歩性があること。 わかりにくいです。

①産業上の可能性とは、工業だけでなく農林水産業、商業、サービス業など全ての産業ですが、個人的・学術的行為や、実現不可能なSF的な行為は含まれません。また、医療行為も対象外です。ある手術方法が特許権で保護された場合、手術中に「あの手術方法だったら直せたのに実施することができません」って言われたら悲しいですからね。

➁新規性とは、公知、公用、文献公知に当たらない意味です。日本国内だけでなく外国においてでも、インターネットで知られたら新規性を失います。誰もアクセスしていないホームページでも公知の状況に置かれたらだめです。但し、本人の意に反して知られた場合(詐欺、強迫、産業スパイなど)と、本人の行為の場合(うっかり学会で話してしまうなど)は、新規性喪失後1年以内に特許出願すれば救済されます。

③進歩性とは、その業界人なら誰でも思いつく当たり前にのようなことは進歩性がないと判断されます。

(3)不許可事由該当しないこと:不許可事由には、公序良俗違反のようなもので、残虐な殺りく方法や、遺伝子操作によるヒト自体など。但し、毒薬(良薬になる場合がある)や爆薬(鉱工業用途で使用)は不許可事由に該当しません。

(4)先願主義:発明者が複数いる場合、先出願のみが特許権を与えられます。先とは一日単位なので、同日に複数出願があった場合は、出願人同志で協議して一人に決めなければなりません。

(5)拡大先願でないこと:説明が難しいので省略します。

特許を受ける権利

「特許を受ける権利」と「特許権」は違います。「特許を受ける権利」は発明者だけで、発明した時点で自然人に原始的に帰属します。複数人の共同発明の場合もあり得ますが、創作活動そのものに関与しなかった補助者・管理者・後援者のような立場の人は対象外です。 この「特許を受ける権利」は、予約承継(職務発明)・一般承継(相続、合併)・特定承継(譲渡、売買)によって、自然人または法人へ承継することもできます。

 

職務発明

特許の多くは企業に勤める従業員による発明です。職務発明とは、使用者の業務範囲内で、発明に至った行為が従業員の現在および過去の職務に属する発明のことで、たとえば自動車メーカーの設計者が本来業務の中で新型エンジンを発明した場合です。 従業員の発明であっても職務発明にならない例は、自動車メーカーの営業担当者が本来業務とは別に新型エンジンを発明(業務発明)や、設計担当者が本来業務の中で新方式のボールペンを発明(自由発明)です。

職務発明の場合、特許を受ける権利は発明者である発明した従業員に原始的に帰属し、そのままその従業員が特許権を取得し、退社してしまったりすると、使用者(企業)がその特許を実施できなくなる可能性がありますが、「通常実施権」だけは残ります。

使用者(企業)側としては、あらかじめ契約や勤務規則などにより、使用者に特許を受ける権利を承継させること(予約承継)が可能なので、この契約や勤務規則などを決めておくことが基本です。その場合、発明した従業員は「相当の利益」を受ける権利があります。「相当の利益」とは相当の金銭その他経済的利益(昇進、昇格、ストックオプション、留学の機会など、きんせんだけではない意) この「相当の利益」でもめたのが青色ダイオードの事件です。

研究を行う従業員のインセンテイブなので、あらかじめ定める契約や規則の中で、「相当の利益」の基準を示しておくこと、その処遇についてよく協議する態様が重要になります。

 

特許の登録手続き

出願から登録までは最も短くても2年はかかるので驚いてしまいます。特許権の有効期間20年間の起算日は出願日です。

(1)特許長官への出願:願書には明細書、特許請求の範囲、必要なら図面、要約書(200~400時程度)を添付します。願書が出されたら形式的な方式審査が行われ、補正命令が出されることがあります。補正命令に対し補正書を提出しないでおくと出願却下になります。

(2)出願公開:出願日から1年6か月後に出願内容が公開される制度です。

(3)出願審査請求:出願日から3年以内に出願審査請求を行うと、実体審査(実質的審査)がやっと始まります。出願公開とこの出願審査請求にこんなに時間の余裕がある理由は、研究開発の競争の中で出願者はより完全な発明にしたい、取り下げて別の発明に変更したい、一つの発明の中には複数の発明があったり、他者に先に出願されたら水の泡になるなど、様々な考えを持つ場合があり、慎重に審査・登録を進めるためと言われています。また審査する側も時間を掛けて調べるので慎重に出願して欲しいのでしょう。

(4)実体審査で拒絶される場合は、拒絶理由通知書が出て、60日以内に意見書か補正書を提出しないと拒絶査定で決定してしまいます。何度も拒絶理由が出て補正し、やっとOKがでることを特許査定と呼びます。 特許査定が出れば30日以内に3年分の特許料を納付すれば晴れて登録され、特許証が交付され、特許公報で公開されます。

 

特許権の効力

特許権とは、業として特許発明を実施する独占排他的な権利です。業としてはとは、個人的・家庭的な実施を除く趣旨で営利性や反復性は問われません。独占排他的とは、特許権者だけがその発明を実施し、他者が実施することを排除できる意味です。同業他社が同じような研究をしていて、ある日突然、出願公開されたら、先を越されたと悔やむ、特許査定が出ないよう祈り、特許査定が出ても特許異議申立てや特許無効審判を請求することはできます。審判に不服があれば、東京高等裁判所に取消訴訟に提起することも可能です。

一方、特許権者が特許権を侵害された場合は、①民事的手段(差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、侵害物廃棄請求など)、②刑事的手段(特許侵害罪で両罰規定になる) 特許権が強い権利といわれるのは、民事的手段では、侵害されたことを自ら立証する必要はなく、侵害者が侵害していないことを証明しなければならない点、侵害者は「知らなかった」とは主張できず過失があったと推定されます。民法の不法行為には認められていない差止請求も侵害者または侵害するおそれがある者に対しても(予防請求)認められます。

特許権の実施

特許権の実施権には、専用実施権と通常実施権があります。

(1)通常実施権:特許権者と契約(許諾通常実施権)、即ちライセンス契約を結び、特許権者はロイヤルテイ収入を得ることができます。

(2)専用実施権:特許権者も特許発明を実施できない権利で、特許権の譲渡に近いものです。専用実施権は、特許原簿に登録しないと効力が発生しません。専用実施権者には差止請求や損害賠償請求権もあります。

なぜ、専用実施権が必要なのか考えてみましょう。たとえば複合的な発明でA、B、Cという発明が含まれていた場合で、特許権者にはAとBしか実施する計画がない、Cは元々AとBの発明の副産物的なもので自社の事業と直接関係の無いものだったとしましょう。その時、他業種の他社にとってそのCという発明は有用で、専用実施権を獲得できればその業界で競争優位に立てるケース(説明が難しいですね)が考えられます。もちろん相当の対価を払って専用実施権の契約が必要になります。 

通常実施権と専用実施権は同じような名称ですが、権利の内容は全く違うことになるので、取得した特許をどう使うか戦略的な検討が必要になります。