2006年4月施行の公益通報者保護法は、リコール隠しや食品偽装など法令や規則に違反していることを企業内部の労働者(正社員だけではない)が内部通報を行った場合、解雇等の不利益な取扱いを行うことが禁止しています。過去に摘発された企業の不祥事の中で、労働者による内部告発が発覚の発端となった事例は少なくないそうです。
しかし、中小企業の過半数は内部通報制度自体に認識が低く(無く)、社内に内部通報制度を導入している中小企業は1割前後です。告発する労働者は本当に保護されるのか不安であったり、そもそも制度を知らない人が多いのが実態でしょう。 2020年6月、同法を強化する改正案が可決され2年以内に施行される予定です。
公益通報者保護法の内容
(1)通報対象事実:法令や規則の違反とは、刑法をはじめ、食品衛生法、金融商品取引法、個人情報保護法、廃棄物処理法など多岐にわたり、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関する広範囲な法令が対象とされています。具体的には、横領、贈収賄、リコール隠し、食品偽装、無許可の廃棄物処理、行政機関からの勧告違反や命令違反などですが、実際の通報では社内関係のもつれ、不満、人間関係の悩みが多くなってしまっているそうです。
(2)通報先:3種類あり、①事業者内部(上司含め)、②行政機関(命令や勧告の権限を持つ行政機関)、③外部機関(消費者団体、労働組合、弁護士会など)で、①の事業部内部(上司を含め)へ通報することが最も多く、②や③については具体的にどこへ通報すれば良いのかわかりにくいですね。
(3)労働者の保護:通報を行ったことを理由としての①解雇の無効、②派遣労働者の場合の契約解除無効、③不利益な取扱い禁止(減給、降格、退職の強要、不利益な配置転換等)。
内部通報制度とは
内部通報制度とは、事業者内部(外部窓口も可)に通報の受付から、調査・是正措置の実施、再発防止策を適切に行うために、通報対応の仕組み、内部規定の整備、調査の独立性、利益相反関係の排除、安心して通報できる環境整備などを行うことですが、この制度設計やどうやって実行を担保するのかが課題になります。2020年6月改正のポイントは、従業員300人以上の起業では内部通報制度設置の義務付け、通報者に対して報復的な人事を行った企業の公表などですが、ほとんどの中小企業は対象外です。
匿名通報の扱い
仲間を裏切る行為と捉え、通報後のことを心配することは大いにあり得ますが、通報者本人が特定できな匿名通報については、同法の保護対象にならないと考えられています。匿名通報では調査が困難であったり、非通報者の誹謗・中傷を内容とする通報を助長するおそれがあるからです。しかし、実際は内部通報制度を導入している事業者の7割は匿名通報を受付けています。内部通報制度の周知・アクセスを高める効果や、広範囲な情報を収集する効果が期待でき、客観性が認められる通報については調査対象にしているようです。
事業者にとってのメリット
内部通報制度を整備し、しっかり運用ることは、「不正を行わない」、「違法行為を正す」という企業風土の醸成につながり、その事業者の社会的評価が高くなることが期待されています。CSR活動、コンプライアンスの徹底、企業ブランドの向上ということです。 義務化が更に進めば、内部通報制度を導入していない事業者は取引先、株主、求職者から避けられる可能性も出てくるかも知れません。 食品偽装やリコール隠しなどの事件が明るみに出ると、それまで積み上げてきたブランド価値、社会的評価が一気に下がり、企業存亡の危機に陥る可能性がありますので、経営者が本気になって具体的に取り組む必要があると考えます。