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企業経営に影響を与える法律④:特定商取引法

さくらい行政書士事務所 特定商取引法

「企業経営に影響を与える法律」ブログの4記事目です。BtoCの事業を行っている企業だけでなく、消費者として多くの方が、訪問販売、通信販売、特定継続的役務提供など、この特定商取引法によって規制されている取引を行ったことがあると思います。

正式には「特定商取引に関する法律」であり、2001年6月施行なので、まだ20年くらいしか経っていない比較的新しい法律です。ということは、それ以前の20世紀は悪徳業者のやりたい放題だったのでしょう。

事業者が現在この特定商取引法の規制に違反した場合、業務停止命令の行政処分や、罰則が科せられることもあります。

尚、消費者保護法は、消費者の利益を保護する目的で企業活動を規制する法律の総称で、消費者基本法、消費者契約法景品表示法などと共に、特定商取引法があります。

 

規制されている8種類の取引類型

(1)訪問販売:購入意思を持っていない消費者に対して、いわゆる「押し売り」で、不意打ち的な強引な販売によって、消費者が冷静な判断ができなくなる可能性があります。

(2)通信販売:以前はカタログ販売が中心でしたが、テレビショッピングや近年ではネット販売によって拡大している事業者と消費者が相対せずに取引を行うケースです。

(3)電話勧誘販売:訪問販売同様に不意打ち的な強引な手法(話法)によって消費者が冷静な判断ができなくなる可能性があります。

(4)連鎖販売:消費者を勧誘員として利用する、いわゆるマルチ商法と呼ばれます。お友達へ販売すればリベートが入る仕組みなど複雑で、消費者にとってリスクが高い取引です。一般小売店では販売していない商品で、消費者から消費者へクチコミで伝える形式が多く、そもそも値付けが高いケースが多いと思います。これにハマった人は友達を失う原因にもなったでしょう。

(5)特定継続的役務提供:学習塾、外国語学校、エステサロンなどのように長期的な役務提供を契約する取引です。

(6)業務提供誘因販売:ある業務に従事することで収益が入るとして誘引し、その業務に使用する商品を購入させる取引です。

(7)訪問購入:「押し売り」の反対で「押し買い」で、事業者が消費者の自宅を訪問し、貴金属などを安く買い取る取引です。

(8)ネガテイブオプション:商品を一方的に送りつけた後に代金を請求する取引です。

 

どんな規制か

(1)氏名等の明示:事業者は取引勧誘に際して、消費者に対して、事業者の名称や勧誘目的であることを告知する義務

(2)不当な勧誘行為の禁止:事業者は、不実告知(虚偽説明)や事実不告知、消費者を威迫し困惑させる勧誘が禁じられており、勧誘の際は重要事項を告知することも要請されています。

(3)広告規制:事業者が広告をするとき、重要事項の表示が必要であり、また虚偽・誇大な広告は禁止されています。

(4)申込画面、契約書面などの交付義務: 事業者は、取引の申し込み時や契約締結時に、必要事項を記載した画面で確認させたり、契約書面を交付しなければなりません。

 

民事的効力

(1)クーリングオフ:通信販売を除く各取引は、法定期間内であれば、消費者は理由なく契約を解除できる制度。無理由による一方的契約解除は、民法に定める契約自由の原則の例外になります。 クーリングオフの法定期間内とは訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、訪問購入の場合は8日間、連鎖販売と業務提供勧誘販売は20日間です。契約解除の連絡方法としては内容証明郵便が最良です。

(2)取消権:通信販売を除く各取引について、不実告知及び事実不告知について取消権が規定されています。

(3)過量販売解除権:一人住まいの老人に布団を大量に販売するなど、必要量を大幅に超える商品の販売については、1年以内の解除権を認めています。

(4)法定返品権:上記(1)や(2)は通信販売(カタログ販売、テレビショッピング、オンライン販売など)は対象外です。しかし、通信販売には、返品特約の表示がない限り、商品受取後8日以内であれば、消費者の送料負担によって返品ができます。 返品特約が有効に表示されている場合にはこの法定返品権は適用されないというルールです。

 

業務上のポイント

(1)特定商取引法は消費者保護・救済が目的になりますが、事業者としては行政処分を回避し、商取引を円滑に行うために、どんな規制がされているか留意する必要があります。交付書面については、その色(赤字)やフォントサイズ(8ポイント以上)まで決められており、特定商取引法のガイドラインを確認して用意しておく必要があります。

(2)8日間や20日間のクーリングオフの起算点は、事業者が法定要件を満たした書面交付です。この書面交付が無い場合は、消費者はいつでもクーリングオフが可能であることが特徴です。そしてクーリングオフ期間中は無理由で、返品費用は事業者負担、そして消費者が商品を使用していたり・サービスを利用していてもその費用は請求できません。 例外は、訪問販売や電話勧誘販売において3,000円未満の現金取引や、開封すると商品価値がほとんどなくなってしまう化粧品などの政令指定消耗品はクーリングオフができません。

 

以前アメリカに住んでいたころ、このクーリングオフは一か月間でした。ほとんどすべての小売店では、ThanksgivingやX'masセールの後は、返品専用カウンターを設置し、返品を求める消費者が長蛇の列になります。 週末のパーテイで一度着たドレスや靴も無理由で返品可能、プレゼントをもらった時にレシートも渡す・要求することもあり、消費者が強い国の商習慣は凄まじいものでした。 日本はまだまだ「返品するのは申し訳ない」「欲しいと思った私が悪い」などと善良で真面目な国民性が残っているので、こういう細かい法律が必要なのでしょう。

 

令和6年5月追記

特定商取引法は、消費者と事業者の間の情報格差があることにより、消費者の利益を擁護しなければらないという背景があります。 

 

よって、同法第26条のように適用除外が設けられており、その筆頭が、「売買契約若しくは役務提供契約の申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの又は購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供」であり、事業者間の契約にはクーリングオフは適用されないと解釈できます。

 

さて、ここで事業者なのか消費者なのかの定義が曖昧なことに気付いてしまいました。同法や消費者基本法には明確な定義はありません。 「特定商取引法ガイド」を読んでみると、第26条は「契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではない」と書いています。 法人(事業者)であっても、契約目的が個人消費であれば同法は適用されるということです。 個人事業主だとさらに曖昧になります。税務署に開業届を提出しており、当該事業の記載があれば良いのか? そもそも法人には定款があるが、個人は許認可などの縛りがなければどこで何の事業でもできます(職業選択の自由)

 

さらに、「法の趣旨に照らせば、仮に、契約の相手方となる消費者に金銭を稼ぐなどの利益活動を行う意思があったとしても、そのことのみをもって、「営業のために若しくは営業として締結するもの」に直ちに該当すると解されるものではない。」、「契約の対象となる商品又は役務に関する取引の種類、消費者が行おうとする利益活動との関連性や目的、消費者が契約の対象となる商品又は役務を利用した利益活動に必要な設備等を準備しているかなどの事情を踏まえて、当該消費者が当該取引に習熟していると認められるかどうかを総合的に検討する必要がある」とまで説明があります。

 

これだと基本的・普遍的な「契約自由の原則」と「いったん契約が成立したら履行する義務」を無視する事案もあり得るので、売る側は不安定な営業を余儀なくさせられます。結局契約時には、「利益活動を行う意思」「行おうとする利益活動との関連性や目的」「利益活動に必要な設備等を準備しているか・するか」「契約内容を平穏に理解している」などを押さえて確認しておくことが必要なのでしょう。